不思議な魅力をもつ逆接拍 | 日本語好きな人、寄っといで

不思議な魅力をもつ逆接拍

 ピアノのキ-を指1本で打った音は比較的単純な音に聞こえるが、2つのキ-を同時に打った和音のときは、高と低の波長が重なって奥行きや厚みのある音になる。
 この原理をことばの音に取り入れたのが逆接、順接の理論である。
 音相論では子音と母音がプラスとマイナス(明るさと暗さ)の反対方向を向く拍(音節)を逆接拍、同じ方向のものを順接拍と呼んでおり、逆接拍は順接拍に比べると奥の深さや複雑なイメージを作る音になるというものだ。

 そのことを、「金」と「銀」という2語の比較で見てみよう。
「キン」の「キ」は子音と母音が+と+(陽と陽)を向く順接拍で、 「ギン」の「ギ」は-と+(陰と陽)の反対方向を向く逆接拍である。
    キ……k(+B1.3 H1.3) + i (+B1.0 H1.0)
    ギ……g (-B2.0 H1.0) + i (+B1.0 H1.0)
 その結果、順接構成語の「キン」は、「金満家、金歯、成金,金ピカ」など単純で表面的な美しさを表す語に多く使われるが、逆接構成の「ギン」は、金属の価値は金の50分の1しかないにもかかわらず、「銀閣寺、いぶし銀、銀座、銀の鈴、銀馬車、銀ぎつね、銀河」など内面的な美しさや奥ゆき感、優雅感を持った語に多く使われていて、ネガティブな語には見られない。


 また、草むらにすだく秋の虫の名で逆接拍の入ったものに「まつむし、すずむし、こおろぎ、きりぎりす、くつわむし」があり、順接構成の虫の名には「うまおい、かねたたき、かんたん」などがあるが、古くから詩歌などで歌われているのは前者(逆接構成)の方で、美しい音色を持ちながら順接構成の後者の虫は和歌の中で使われることは極めて稀だ。


 この国には遠い昔から「秋の風情」を伝える虫の名には、逆接構成の名がふさわしいと感じる音相感覚が存在していたことがわかるのだ。日本人はこのようにして日本語個有の音相感覚を磨いてきたのである。
 その感覚は現代語の中でも、数多く見ることができる。そういう例をあげてみよう。
・「奇麗」(順接)と「美しい」(逆接)

・「キラキラ」(順接)と「ギラギラ」(逆接) 

・「青い海」(順接)と「ブル-の海」(逆接)・・・