商品名も、文化を担うことばになれる
ある小説に次のような一文が載っていた。
「冴子は、シャネルの淡い香を残して帰っていった。・・・」
香水の知識など何もない私だが、このことばから、冴子という人になよやかで上品な女性のイメージが生まれてくる。それは「シャネル」という音相から得られるもので、具体的には無声摩擦音の拗音「シャ」と、「ネ」(鼻音・・・有声音)、「ル」(流音・・・有声音)という音の響き合いが作ったイメージだ。
この香水の名を「コティ-」に変えたらどうだろうか。コティーだと無声破裂音「コ」と「ティ」でできているため、「怜悧でやや冷たい感じ」の人になる。
このようにその人が持つブランド名を変えるだけで、人のイメージも変わってくる。
小説などに出てくるブランド名や小道具などには、そういう配慮のあるものが多いが、日常の会話に彩りをそえている商品名や、何となく口に出してみたくなるブランド名などは、商品名、ブランド名の次元を超えた、「ことば文化に昇華したことば」といってよいだろう。
ネーミングは、そういうことを目標に作ってゆきたいものである。