音相理論が捉えた世界 | 日本語好きな人、寄っといで

音相理論が捉えた世界

ことばは意味を伝えるだけでなくイメージを伝える働きをするが、語がもつ意味と、音が伝えるイメージが同じ方向(ベクトル)を向いたとき、その語が伝えるイメージはさらに具体的で厚みのあるものになる。
 だが、言語学では、語音が作るイメージは「意味論」の中で論じられ、意味の一部とされている。
 そういう長い歴史から、文章の鑑賞も意味が中心で行なわれ、音が作るイメージ的な鑑賞はほとんどされないままで終わっている。
 西欧の言語学に「音象徴」の理論があるが抽象論で終始していて現実のことばのイメージ把握には役立たないし、わが国に古くからある音義説は客観的配慮のないままで終わっている。
 だが大衆の音響感覚が高度に発達したのにともなって、ことばが伝えるイメージは、意味とは異なる機能をもち、重要な役割を言語生活ではたしていることがわかってきた。
 音相理論は、語音が伝えるイメージを数量的に把握する技術だが、この理論がはじめて開発した主な分野として次のものが上げられる。

 1.言語学の「意味論」でいう「ことばの象徴」(イメージ、表情)を、実証的に整理し、その体系化を行なったこと。

 2.イメージ(表情)を捉える方法として、語音の構造と表情の実態を明らかにし、それらの関係性を捉える手法を開発したこと。

 3.学問の対象外におかれている「大衆」の実態を分析し、「大衆」がもつ「平均的感性」をイメージ評価の基本に置いたこと。

 4.イメージを客観的に捉える手法として、「現用されている和語」に着目し、それを主な調査対象語に選んだこと。

 5.語が持つイメージ(表情)を、+輝性(+B)、-輝性(-B)、および勁性(H)の3要素で捉えたこと。

 6.すべての「表情」を20種の概念語に集約したこと。

 7. 順接拍、逆接拍、無声化母音、調音種比など、表情を作る音相基の存在を発見し40種の甲類表情を捉えたこと。

 8.甲類表情より客観価値の高い乙類表情(38種)を取出したこと。

 9.「情緒」を、複数の表情語の照応から生まれるものとの理解に立ち、90種以上の情緒語を捉えたこと。

 10.ことばの表情把握に必要な10種類の「特性検出項目」を定めたこと。

 11.音価(BH値)計算の基本となる標準値を設定したこと。

 12.難音語、ラ抜きことば、他援効果などに関する実態分析とその法則化をはかったこと。