●「トヨダ」から「トヨタ」へ・・・世界への飛躍に貢献したネーミング・パワー | 日本語好きな人、寄っといで

●「トヨダ」から「トヨタ」へ・・・世界への飛躍に貢献したネーミング・パワー

トヨタ自動車は3年連続1兆円超の最終利益をあげ、生産台数も昨年GMを抜いて世界一となった。
 「トヨタ自動車」の前身は「豊田自動織機」だが、1937年に独立し呼称も「トヨダ」から「トヨタ」に変わった。今でも「トヨダ自動車」と呼ばれることが多いようだが、「トヨタ」への改称が今日の隆昌に大きく関わっているように私には思われる。
 それは「ダ」と「タ」、濁音があるかないかの違いだが、音相的には「ダ」は存在感や重厚感を伝える「有声破裂音系」の音、「タ」は軽さや明るさを作る「無声破裂音系」の音だから、その違いが世間の人のイメージを変え、アイデンティティーや社員のマインドを変えるエン ジンとなっただろうことは疑う余地もないはずだ。
 このことを今少し具体的にしてみようと、音相分析を行ってみた。
 まず、「トヨダ」を見てみよう。
 (注)表情解析欄の青い棒グラフは、次の違いを示すもの。
 濃い青・・・「活力感、若さ、シンプル感、現代感」など、明るさや活性感などプラス方向を向く表情語。
 淡い青・・・「高級、優雅、落ち着き、安定感」など、静的または非活性的なマイナス方向の表情語。
 中間の青・・・プラス、マイナス、どちらにも機能する表情語。

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toyoda
 

 表情解析欄の高点部分で気品や高尚さを作る表情語「静的(T)」,「高級感(R)」,「安定感(Q)」,「安らぎ感(P),「優雅感(S)」を捉えているが、「クルマ」に欲しい現代感やメカニックなイメージを作る表情語「強さ(J)」、「シンプル感(A)」、「軽快感(F)」、「活性感(D)」、「個性感(K)」などが低いうえ、とりわけ強調したい「庶民性(M)」がゼロ・ポイントになっているなど、コンセプトの把握に大きな偏りのある語であることがわかる。

次に「トヨタ」を見てみよう。

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tyota
 

 表情解析欄では「庶民性、適応性(M項)」をトップに、近代的な雰囲気を作る「都会的(H項)」、「合理的(J項)」、「活性感(D項)」を高点に置き、クルマ表現に必要な気品や高級感を作る「安らぎ感(P項)」,「信頼感(Q項)」,「高級感(R項)」,「優雅感(S項)」,「静的(T項)」などを程よい加減で取り入れている。
 さらにこの語には、全体のポイント数を低目(最高50.0)に抑えたという良さがある。全体のポイント数を低めるとすべての表情が圧縮されるから、密度や奥行き感のある語になるが、「トヨダ」のようにポイント数を高めると、イメージが明白になる代わり、単純で厚みのない語になってゆく。
 「トヨダ」と「トヨタ」の音の違いを分析すると、「トヨタ自動車」が飛躍をとげた裏に「音相」という目に見えないパワーが存在していたことがわかるのだ。