ネーミングで忘れてならない「麻痺現象」という落とし穴 | 日本語好きな人、寄っといで

ネーミングで忘れてならない「麻痺現象」という落とし穴

 新しいネーミングに出会ったとき、何とないぎこちなさを感じても、その語を繰り返し聞いているうち、初めのぎこちなさが気にならなくなることがよくあります。

 このような現象を、音相論では「ことばに見られる麻痺現象」と呼んでいます。

 麻痺現象は元号や地名や社名など、普段多く使われることばほど、それが早い時期に現われます。


 「平成」という元号名が発表になった時、マスコミが識者や町の声を多く聞いていましたが、「感じが良くない」、「明るさがない」、「平凡だ」、「未来期待感がない」、「意欲がない」などの感想がほとんどで、「良い」というのはゼロに近いようでした。

 そのときこの語の音相を分析してみたら、「穏やかで安定感はあるが、暖かさや親しみを感じない語」との評価が出、その原因は「へーせー」の4音がすべてネガティブなイメージを作る「エ」音できていることと、子音(h、s)も穏やかだが響きの弱い摩擦音ばかりでできているからだと出ていました。

 私はそのとき、大衆のことば感覚の高さに驚いたのですが、同じ新聞社が3カ月後に行なった同じアンケートの結果では、前記の内容とは反対に「感じがよい」、「明るい」、「使いやすい」などがほとんどで、「良くない」はまったくありませんでした。


 大衆の直感など、それほど当てにならないものだから、大衆の感や第一印象など無視してよいという見方も生まれそうですが、人々が麻痺現象を起こすのは表面的なところだけで、最初に直感した第一印象はいつまでも意識の底に留まって原型のままで作用し続けるものなのです。

 

 東京株式市場の一部上場企業の名で、今でも元号名を冠しているのは「明治」5社、「大正」3社、「昭和」15社がありますが、会社の創立、合併などがとりわけ多かったこの20年間に、「平成」を冠した社名が1社もないのを見ても、社名にするほどの魅力のない語であることを、誰もが心の底で感じているからです。