「表情」は音の響きあいから生まれるもの | 日本語好きな人、寄っといで

「表情」は音の響きあいから生まれるもの

 ネーミングの専門家の間で、「濁音は暗い音だから明るいことばには使えない。まして語頭におくのは禁物」などのことばがよく聞かれます。
 だが「グッチ」「バヤリース・オレンジ」「バイタリス」「バズーカ」「ギア」「ディオール」など語頭に濁音をおいて成功している例は山ほどあるのをみても、ことばが作る表情(イメージ)はそのような単純な仕組みでできてはいないことがわかるのです。
 「ア」(有声音)は「明るい音」とよく言われますが、「ア」には「明るさ」のほか「開放的、適応性、暖かさ、穏やか、無性格的、汎用的」など10の表情がありますし、「s」(サ行音…無声摩擦音)の音には「清らか、爽やか、健康的、清潔感、静的、非活性的、奥行き感、暖かさ、安らぎ、穏やかさ」など、やはり10ほどの表情をもっています。
 音の単位である「音素」はこのように多くの表情を持っていて、2つの音素が持つ表情の一部分が互いに響きあったとき、その部分の表情だけが顕在化した「表情」になるのです。
 たとえば、「朝」という語は「ア(a)」と「サ(sa)」の音素でできていますが、前記した「ア」が持つ表情語の中の一部「開放的、明るい、汎用的、穏やか」と、「s」が持つ表情語の中の一部、「清らか、爽やか、静的、穏やか、」の部分が響きあうため、「明るく爽やか」な「朝」のイメージ伝わるのです。