【俳句】 七月や 雨脚を見て 門司にあり (藤田湘子) | 日本語好きな人、寄っといで

【俳句】 七月や 雨脚を見て 門司にあり (藤田湘子)

 俳句作家小林恭二氏は、「七月を詠んだ句の中でもっとも好きな句」と前置きして、この句について次のコメントをしています(産経新聞、日曜俳句欄)。
 なんとなくアンニュイ(退屈)な感じがある。それはおそらく旅先で、なすことなくただ雨脚を見ているというイメ-ジからきている。ついでそのアンニュイの質である。アンニュイといってもいろいろある。男性のアンニュイ、女性のアンニュイ。若もののアンニュイ、老年のアンニュイ。このアンニュイはその中で言えば青年もしくは壮年のアンニュイであろう。
 それはひとえに「七月」の語感によっている。七月ということばには強さ、明るさ、絶頂に向かう勢いなどが最初から含まれている。だからわたしは青壮年期の男性をイメ-ジするのだ。ちなみに同じ七月でも「文月」になるとまた違う。「七月や」のかわりに「文月や」をおいてみたらいい。するとこの句の登場人物は、青壮年期の男性から一転して中年すぎの落ち着いた女性になる。

 「七月」と「文月」という音の響きで、年齢や性別を捉えるなど、さすがに鋭い観察です。小林氏はそれを「語感」という語で述べられていますが、音相論では次のようなコメントとなります。
「しちがつ」
 4拍語の場合、明るさ(B)、強さ(H)の平均値は〈B0.9 H2.3〉ですが、この語は〈B3.7 H8.1〉で標準値より極めて高いため、「非常に明るく、非常に強いイメージをもつ語」となります。このような異状に高い値になったのは日本語の音の中で最も勁、輝性の高い無声破擦音が2拍(ち、つ)もはいったからなのです。
 そのためこの句からイメージされるアンニュイは、10代後半から20代ぐらいの男性のものとなるのです。
「ふみづき」
 この語のBH値は〈B0.3 H4.3〉で、標準値〈B3.7 H8.1〉に比べるときわめて低い値です。原因は、ソフトなイメージを作る鼻音と摩擦音でできているからです。そのためこの語は「穏やか、高級、優雅」など、「静」の方向を向く音相となり、年齢的には中年以上の女性のアンニュイとなるのです。