「音相理論」をビジュアルに表現した初の試み
「音相」が拓く極微の世界…さつきと五月
澄んだ空に鯉のぼりが舞い、生きとし生けるものの息吹きが聞こえるような春の日が続いています。このような季節の空を「さつき晴れ」とも「五月晴れ」ともいいますが、「さつき」は旧暦の五月ですから、新暦では5月下旬から6月下旬までにあたります。そのため5月上旬の爽やかな空は、理屈の上では「五月晴れ」が正しいのですが、なぜ人々は古めいたことば「さつき」の方を使うのでしょうか。音相を分析するとその理由がわかります。
あなたも体験版で試してみてください。
「さつき」の音価(明るさと強さ)は+B4.3 H5.2で、明るさが+B4.3ときわだって高いうえ、摩擦音、破擦音、破裂音、前舌音、喉頭音など調音種の種類が多いため、「カラッとした明るさや活力感」が伝わります。これに対し「五月」の音価は、―B3.0 H4.2とマイナスの方を強く向いた暗く重たい音相をもっています。
人々は、このような音相の違いを肌で感じて知っているため、五月上旬の明るい空を思ったとき無意識に「さつき晴れ」の方がでてくるのです。
しかしながら「五月」には、前期したように暗さと重さという一面を持っているため、この季節がもつ奥行き感や存在感を表現したいときによく使われます。
えにしだの 黄にむせびたる 五月かな (久保田万太郎)
五月という音相がもつずっしりした存在感が、「えにしだの黄にむせぶ」と見事に調和しているのがわかります。この句の場合、「五月」は「さつき」であってはならないでしょう。このように、ことばは音の構造のわずかな違いで、微妙に異なる音相をつくります。どのような音相の語を使うかで、人に伝える感動が活きたり死んだりもするのです。
そんな極微の世界に挑むのが、この音相のコーナーです。(木通)
イメージ解剖 「わ・さ・び」
「わ・さ・び」 (雑誌名)
「ゆとりと和(なご)みのある暮らし」を求める中年女性向けのライフスタイル誌、
「和・沙・美」(わさび)が創刊されました。
「食」を中心とした雑誌のようですが、「わ・さ・び」という語が現代人にどんなメッセージを伝えているかを、音相分析で捉えてみました。
表情解析欄の上位に「高級、充実、静的、安らぎ、安定感」があり、情緒解析欄でも「ふっくら感、情緒的、クラシック感、不思議さ、孤高感」など中年女性好みの音でつくられたことばであることがわかります。
しかしこの語のおもしろさは、そのような古風なイメージとともに、現代という時代をしっかり捉えた音をもっていることです。
時代性やモダンさを捉える方法にはいろいろありますが、この語の場合は「少拍(音の数が少ないこと)」で「イ」音が多いこと調音種の数の多さでそれを表現しているのです。
和やかさや、高級感の中に時代性を求める中年女性の心を見事に捉えたネーミングといえましょう。(木通)
イメージ解剖 「ANEGO」
「ANEGO」 …日本テレビ、番組名
4月から日本テレビに登場した新番組名。
30代のキャリアウーマンの、一見颯爽と見える内面に見え隠れする葛藤や未来への不安。ふと気付いたら後輩から「あねご」と呼ばれ、頼られる存在になっている、現代どこにでもいるそんな女性をリアルなタッチで描いたドラマのようです。
あねごといえば、「姐御」という古い文字が浮かび、やくざ社会の蔭が浮かんだりしますが、この語を体験版で見てみるとおわかりのように、「あねご」の音から「庶民的、にぎやかさ、シンプル、充実感、軽快感」など、現代の先端をゆく女性が持っているイメージを表す表情語がふんだんに入っているのがわかります。それは、調音種の種類と母音の種類が多いことと、子音と母音の明るさと暗さが同じ方向を向く順接拍構成(「ご」音)によって生まれたものです。
それらを「ANEGO」というローマ字で表現した。よく考えられたネーミングといえましょう。 (木通)
見落とされているリストラ策 ―― 「遊休商標」再評価のおすすめ
バブルの時代、各企業では将来作られる商品のため、社員を動員してネーミングを考案し商標登録する施策が各企業で行われました。いま、そのようにして登録された大量の商標が、企業の金庫で遊休商標となって眠っています。その数は消費財を生産する中、大手製造業では1万語以上、大企業では数万語の社も多いといわれています。
そのような登録ブームの影響で、現在では新しくネーミングを申請しても不受理となるものが多く、とりわけ意味的な要素が含まれている語は、ほとんど登録不可能とも言われています。
企業では、登録された商標は社長室や知財部、総務部などで管理していますが、その使用や運用は各事業部が中心で行われ、各事業部が創案した商標は他事業部への融通もほとんどされていないのが現状です。
しかしながら、会社がこれらの商標権を維持するのに、毎年どれほど費用がかかっているかご存知ですか。1万語を持つ会社の例でみてみましょう。
特許庁ではあらゆる商品を、薬品、化粧品、食品、電気製品、コンピューター、自動車、出版など45の「区分」ごとに申請を受け付けます。
そのため商品が属する「区分」以外のところにも同じ名前で申請しておかねばならず、その数は商品によって違いますが45区分の半分くらいになるものが多いようです。
こうして許可された商標は、10年ごとに権利の継続(更新)申請をしなければなりませんが、その際の更新料は1区分151、000円ですから、1万語を20区分に申請すると、
1万語×20区分×151,000円=302億円
となり、毎年30,2億円の印税を支払うことになるのです。(この計算には弁理士費用などは含まれません)
だがそれほど費用をかけている商標が、将来その事業部で造る製品のコンセプトからみて基本要件を満たしているものかどうかが問題です。
音相分析を長年手がけてきた当研究所の体験から推計して、一応使用に耐えると思えるものは、大目にみても3分の2程度と私は判断します。すなわち毎年支払う印税、30億円の3分の1(10億円分)は、将来も使用見込みのないものに出費していることになるのです。
10億円といえば中堅職員200人分の年間人件費に匹敵します。
以上は、遊休商標1万語をもつ企業の例ですが、その1/100規模の会社でも年間1000万円の節約になるのです。
そこで遊休中の商標が将来使用できるものかどうかのチェックが必要となりますが、それには、1つ1つの商標がその事業部の商品コンセプトに適したものかどうかを客観的立場で評価しなければなりません。
それが公正に行えるのは音相理論によるコンピューター解析以外にないのです。企業内のネーミングの専門家といわれる人でも、音相解析や客観評価が できる人はいないのです。
これまで行ってきたリストラ対策により、不要の商標はすでに整理済みと思っておられる会社もおありでしょうが、理論を知らずに評価をしても、個人の主観のはいった評価にすぎないのです。
音相分析をした結果、不適格と判断された商標でも、他の事業部へ転用すればヒット・ネーミングになれるものが必ずあるはずですし、どの事業部でも使えないものは相当の対価を得て社外へ譲渡すれば社会に貢献もできるのです。
これからのネーミングは、制作の時代から、流通の時代へと変りつつあります。当研究所では種々の角度からこれからの商標問題を研究しておりますので、お気軽にご相談ください。
「念仏のお題目」を分析する
念仏のお題目 「南無阿弥陀仏」 と 「南無妙法蓮華経」 が音相的にどんなイメージを持つことばか、不謹慎の謗りをうけるのではと思いながら、ことば研究者の立場から音相分析を試みました。
● なむあみだぶつ (南無阿弥陀仏)
人々が宗教に求める「充実感」「暖かさ」「安らぎ感」「信頼感」「高尚さ」などが、表情語の最高点できわめて明白に捉えられているのが一と目でわかります。またコンセプト・バリュー欄でも、性別や時代にかかわりなく受け入れられることばであることを正しく捉えています。
● なんみょうほーれんげきょー (南無妙法蓮華経)
表情語を見ると、前者(南無阿弥陀仏)とまったく同じ表情語が最高点でとらえられているのに驚きますが、前者より拍数が多いためマイナス輝性値が低くなり、それだけ高勁輝拍の使用比率も少なくなるため、前者の「万人向け」とはいくぶん違う、やや「年配者(女性は中年も含む)」に向くたことばであることがわかります。
しかしながらさらに驚くことは、これら2つの情緒解析欄を見ると、どちらにも「神秘的」「不思議な感じ」「情緒的」「人肌のぬくもり感」「夢幻的」「孤高感」「おおらかさ」などを捉えていて、これらのことばを繰り返し唱えることで、異次元の世界が感得できる不思議な雰囲気をもったことばであることがわかるのです。さすが、宗教のお題目にふさわしい、すばらしい音相をもったことばであることに驚くばかりです。 (研究員 桂太)
Onsonic体験版の読み方と注意点!
1.取り出された表情は一部のものにすぎないこと。
分析表は9種類のデーターを取り出します。本格的な評価はそれらデーターを総合してとらえますが、体験版にでたものは中の一部「表情解析欄」だけです。そのため大事なネーミングを決められるときは、必ず当研究所に正規の分析を依頼されることをお勧めします。
2.表情解析欄の数字の読み方
体験版に出で来る表情解析欄の数字は、その語がもつ表情語間の関係を見るためのものですから、他のことばの表情語の数と比較をしてもほとんど意味がありません。
3.表情語の意味には幅があること
表情語はその周辺にある概念のことばを1語にまとめた抽象的なことばですから、表情語そのものの意味にあまりとらわれないことが必要です。
たとえば、「安定感」という表情語には「納まり感、存在感、落ち着き、冷静」などのほかに「のろま、愚鈍」なども含まれますから、表情後をことばとして表現するときは、それらの中のもっとも適切ことばを選ばなければならないのです。
4.ネガティブ語を読むこと
また、表情語には「暗い」「汚い」など、印象の良くないことば(ネガティブ語)は一切含まれていません。そのような語が入ると、その語にとらわれて客観的評価の妨げとなることが多いからです。
そのため、表情語を読むときは、ネガティブな意味も頭に置きながら呼んで行くことが必要です。
とくに、ポイントの高い表情語は「行き過ぎの面があるのでは」などの見方も必要です。たとえば「明るい」に高点のある人には「落ち着きのなさ」や「軽薄さ」の一面もあるのではという判断もしなければならないのです。
5.表情語は下からも読むこと。
表情語はポイント数の高い方だけでなく、低い方を読むことも大事です。ポイントの低い方を読むことで、高ポイントにある表情語では捉えられないものが得られることも多いのです。
このように上下両面から読むことで、語全体像のイメージがはっきり見えてくるのです。 (木通)
「首都大学東京」の音相的評価
Q.『首都大学東京』という変わった名前の大学ができました。
このネーミングは音相論的にはどう評価したらよいでしょうか。(P&P)
A.大変問題の多いネーミングです。
まずはじめに、わずか6文字の中で「首都」と「東京」という概念の重複がある初歩的なミスがあることと、「首都大学」という大学の東京分校のような誤解をうけるおそれがあることです。さらに、日本語の音用慣習から見て、語末(キョー)が長音で終わることからくる収まりの悪さ。
新しい機能を持つ大学という建学の意図は理解できますが、これらの欠陥を超えるだけの魅力が感じられないネーミングです。
学校名を決めるとき忘れてならないことは、学生や一般の人々が、
日常会話の中でその校名をどう読むかを念頭におかねばなりません。
日常の会話の中で「首都大学東京」という人はまずいないでしょうし、「首都大」というと、東京分校の感じになってしまいます。
同じことが、同じ日(05年4月1日)に発足した「新銀行・東京」の場合にも言えるのです。
どちらも音相の良し悪しを考える以前の、意味の分野で論ずべき課題なのです。(木通)
「平成」 が消えてゆく
最近、平成という元号の代わりに、西暦を使う傾向が増えています。その方が便利な場合もありますが、日本の文化がまた1つ消えてゆく寂しさを感じている人も少なくないのではないでしょうか。
元号には昭和、大正、明治、天平など、誰もが同じようにイメージしている「時代の顔」がありますが、西暦何年のような数字では何の感銘もイメージも生まれません。それは「銀座の和光前」を「銀座4の5の11号地前」というのと同じような、味気なさと白々しさがあるばかりです。
西暦の場合でも、慣れてくればある程度は顔も見えてくるでしょうが、4数字の羅列ですからそれには<限界があることはいうまでもありません。
元号は、西暦701年の「大宝」にはじまり、1300年間、時代の顔を作ってきましたが、元号には時代、時代をいとおしむ人々の暖かい心を読み取ることができるのです。
西暦表示の風潮は、グローバル化の影響もあるのでしょうが、それがここ十数年間で急速に進んだのは、今の元号「平成」に音相的な魅力がないことが深く関わっているように思うのです。
「平成」という語を、体験版で分析してみましょう。
表情解析欄では「庶民的」 「活性的」 「派手」 「シンプル」など、一応のイメージは見られますが、新しい時代への夢や期待を覗かせる「躍動感、現代感、合理性、優雅さ」などが、いずれもゼロ・ポイントであるうえ、4拍(音)の母音のすべてが、人を寄せ付けないよそよそしさや冷たさを作る「エ」音ばかりでできていることです。まさに、夢を見失い、当てもなくさ迷う孤独な現代人を象徴したような音相をもったことばなのです。
この10年間は、銀行業界を始め、大会社の合併が激しく起こり、その間多くの新社名が登場しましたが、大型会社が離合集散した中で、平成銀行、平成証券、平成デパートなど、平成を冠する名がなぜ出なかったのでしょうか。
それは、人々がこの語に対し、何となく音相の悪さを感じていたからにほかならないのです。そしてそのような「平成」への不人気が、元号そのものの価値を低く見る1つの原因にもなったように思うのです。
世界中の人がその存在や価値に気づかなかった「音相」の力が、目にみえないところで、歴史や社会や人々のこころをこのように大きく支配している例はまことにまことに多いのです。(木通)