日本語好きな人、寄っといで -30ページ目

日本語の美しさを作った膠着語 

 ことばの表情を捉える音相論が日本語にして始めて開発できたのは、日本語が微妙な表現のできる言語だったからだと思います。
  日本語がもついろいろな特徴の中でも、私は膠着語(こうちゃくご)の働きを無視できないように思うのです。
 膠着語とは、意味を持った「語幹」の前や後ろに、それ自体では独立した意味をもたない「接辞」をつけて一語を構成する語のことです。


 それを「源氏物語」に出てくる「にほひやかげさ」という語で説明ししてみましょう。


 この語は「にほひ(匂い)」という意味を持つ語幹に、それ自体では独立したことばにならない「やか」をつけ「にほひやか」として「匂うような感じ」という意味の単語をつくり、さらに「げ」をつけて「にほひやかげ」にして「匂うような感じの状態」という単語にし、さらに「程度」という意味をもつ「さ」をつけて「にほひやかげさ」という語ができています。この語を現代語にすれば、「匂うような感じに見える状態の程度」のようなことばになるのでしょうか。
 意味ばかりでなくイメージの伝わり方を大事にした昔の人は、こんな配慮までしていたことがわかるのです。
 

 源氏物語には、このほか「ものこころぼそげ」「なまこころづきなし」などの膠着語が多く見られます。
 だがこのような膠着語は現代語の中でも日常多く使われています。
 例をあげてみましょう。カッコの部分が接辞部分です。

    晴れ(やか)  (そぼ)降る雨  美し(さ)   (ひた)隠す
    (さ)迷う    (か)細い     嬉し(げだ)  (お)客
    (こ)高い    田中(さん)   (ま)昼     深(み)
    華(やかだ)  怒りっ(ぽい)  煙(たい)

 膠着語は日本語を複雑にしてはいますが、日本語でなければ表現できない情緒や味わい深さを作っていることがわかるのです。そこに日本語の深さの秘密の1つがあるのです。
 日本画は西欧の絵画では表現できない微妙なものが描けるところに特徴があると言われていますが、それと全く同じような感覚で昔の人は日本語の中に膠着語を育てたといってといってよいように思います。(木通)

「音相」ということばはどこから生まれたか


真言宗の開祖、空海が書いた書物に「声字実相義」(しょうじじっそうぎ)というのがあります。

「声発して虚(むな)しからず、必らず物の名を表するを号して字という。名は必らす体を招く。
これを実相と名づく」

事物がもっている実体とそれを表わすことばは一体のものだという「言事融即の説」を説いたものです。

 声字とは記号的な言語ではなく、異次元の宇宙的存在エネルギーとしてのことばを指すもので、
事物がもつ実体(実相)は、音声言語(はなしことば)で代表されることばによって示されると
説いたものです。
 「音相」は、このような背景から得たことばです。(木通)

「もったいない」が、世界のことばになった

 国連の女性の地位向上委員会、3月4日の閣僚級会合で、ノーベル平和賞受賞者でケニア環境副大臣のワンガリ・マータイさんが演説し、日本語の「もったいない」ということばを環境保護の合言葉として紹介し、「もったいない」は消費削減(リデュース)、再使用(リユース)、資源再利用(リサイクル)、修理(リペア)の4つの「R」を表している」と解説して会場を埋めた各国政府代表者に「サーみんなで一緒に『もったいない』を唱和しましょう」と言って会場を盛り上げたそうです。
(産経新聞、05年3月5日号より)

 マータイさんの言う4つの「R」に流れているものを、表現すると、オンソニック体験版の上位にある表情語
 『庶民的、適応性、動的、鋭さ、軽快感、合理的、現実的、清潔感、健康感』がすべてを捉えており、体験版には省略してある「情緒解析欄」では「鄙びた感じ、純粋、素直、クラシック」などをふくんだ語であることを示しています。
 マータイさんは今年2月に来日されましたとき、「もったいない」ということばを聞いて感銘をうけたそうですが、日本語がその音相感覚が伝えているこの語の奥の深いイメージをケニア人のマータイさんが同じように聞きいて感動されていたのです。
 「音相感覚は世界の言語に共通する」…私は多くの例からそんな実感を覚えるのです。

「さくら」

表情語は、矛盾したイメージも持っている
 

 お花見の季節です。なんとなく「さくら」という語を分析 してみたくなりました。
 
 満開の桜を思わせるような表情語

『清らか、爽やか、庶民性、あたたかさ』が表情欄上位3項で見られます。

そしてそれらをフォローするように「活性的、高級感、賑やかさ、溌剌さ」

などが続いています。

桜というモノの実態を見事に捉えたことばであることがわかります。


 だがここで、疑問を感じられる方もあると思います。


 それは表情解析欄に『現代的、都会的』があるのに、情緒解析欄には

全く反対の『ひなびた感じ』がありますし、表情解析欄に『合理的、現実的』があるのに情緒解析欄には全く反対の『神秘的、哀歓』があることです。
 そんなところを捉えて「だから音相分析はいい加減」などという人が

よくいます。


 だがこれは、この語が相反する2面を持っていることを捉えたもので、

この分析が表情を緻密に捉えていることを示すものだといえるのです。


 人にも明るいばかりの人、暗いばかりの人はいないように、

1つのことばにも相反する2面、3面のイメージを持つ語が多いのです。


それらのすべてをとらえることで、はじめて音相分析の深みがわかるのです。(木通)

「音読」はなぜ大切?

・・・音のイメージ効果に気づいた現代人・・・

 文章を声に出して読むことの大切さを説いた書物がいろいろ出版され、
ことばの音の作る効果が見直されるようになりました。

長年、語音のイメージを考えてきた私にとって、世間がやっとことばの音に気づいてくれたという嬉しい思いです。
 

声を出して読むことが、黙読よりなぜ良いのか。黙読は、文字が直接意味と結びつくため音による「イメージ」効果が働きませんが、音読すると意味だけでなく音が作るイメージが同時に伝わるため、内容への理解や認識に厚みが増し、印象的で記憶に残るからです。

 「爽涼」という字は「涼しく爽やか」という意味を伝えますが、「そーりょ
ー」と音読すると、爽やかな季節の風のようなものまで伝わってくるではあり
ませんか。これが「音相」 の世界なのです。(木通)

音相って何?

・・それは、ことばの「心」を伝えるもの・・

・ことばには表情があります。
 
 「あか(赤)」ということばが伝える音には、明るさや情熱的なものを
感じますし、「くろ(黒)」ということばが伝える音には、暗く淀んだ
イメージのようなものを感じます。
 また、「甘いと辛い」、「強いと弱い」、「明るいと暗い」など反対の意味
をもつ語を比べてみてもそれぞれが意味やムードにふさわしい音を持っている
ことがわかります。

このように、ことばの音が持っている表情のことを音相といいます。

 1つ1つのことばに表情の違いがなぜ生まれるのかといえば、それは
それぞれの音に含まれている音素(正しくは音相基)の違いや、それらの
響きあいから生まれます。(木通)

 ことばの音がもつそのような表情は、遠い先祖以来、日本人が日本語との
長い付き合いの中で身につけてきたもので、それは日本人なら誰もが同じ
ような内容で感覚できるコモンセンスといってよいでしょう。
 私たちは、誤りない意思の疎通を行うため、日常ことばが伝えるイメージに
ついてキメ細かい配慮をしています。

 ことばの意味とイメージの関係を科学的な根拠によって明らかにした
のが音相理論 です。

※音素とは、破裂音、摩擦音、有声音など、音声を出すときに操作される
26の方法(調音種ともいう)

※音相基とは、表情を作る単位となるもの。音素の外、多拍、少拍、濁音、
調音、など合計40種のものがある。



「ガラクタ」「まぬけ」「ダサい」を分析する

― ネガティブ語 ― は下から読め

「ガラクタ」という語を分析すると、「庶民的、現代的、進歩的、シンプル、充実感」など、意味の方向がバラバラで、まったく見当はずれの表情語が上位に並んでいます。
 このような分析表を見て、音相分析法は当てにならないと思われる方がおられるかもしれませんが、音相分析がこの語の音相を正しく捉えていればこそ、このような表情語が出るのです。

 「ガラクタ」 とは、静も濁も、硬も軟も、明も暗も、何もかもをごちゃ混ぜにした状態を表すことばですが、音相分析では、無関係な表情語を乱立させることでそうした状態を言い表しているのです。
 表情語には、ネガティブ(否定的)な意味を持つ語は使いませんが、ポジティブな表情語を使ってネガティブな語を分析すると、このような表現になるのです。そのためネガティブ語を分析するときには、特殊な読み方が必要となります。

 ネガティブな意味をもつ語を分析するときは、上部の表情語にあまり捉われず、おおむね半分以下の順位(10項以下)にある表情語を裏返しにして読むことです。
 「ガラクタ」 の場合、10位以下では 「安らぎ感がない、安定感がない、清潔感がない、優雅さがない、明るさがない、活性感がない、清らかさがない」 とでていますから、この語の表情を捉えているではありませんか。
 ネガティブ語は下から読む。分析表を読む際はこんな配慮も必要なのです。

 同じような傾向が 「馬鹿、間抜け、ケチ、きたない、ださい、不潔…」 などにも明白に見られます。あなたも体験版でお試しください。 (木通)

「名前を変えたら人気が落ちた」という話

■ 2004せんだい・杜の都 親善大使
 
 七夕祭りや、光りのページェントなどで活躍していた 『ミス仙台』 の名が、昨年から 「2004せんだい・杜の都親善大使」 と改称されました。
 改称の理由は、男女共同参画の風潮にあやかって、昨年から男性も応募できることになったため、『ミス』 を 『親善大使』 に改めたのだそうです。
 ところが改称された昨年は、応募者が前年の6割くらいに減ったようで、問題の男子の応募者は10名だったとか。

 これは新しいネーミングに応募者が魅力を感じなかったことが大きな理由といえましょう。
 この語の音相上の欠陥がどこにあるかを次にあげてみました。

1.「ミス」 が 「親善大使」 に変わったうえ、「2004せんだい・杜の都」 をくっつけたため、音(拍)の数が 「ミス仙台」 の7拍から24拍へと増えました。

 その結果「ミス仙台」のような明瞭簡潔なイメージが消え、だらだらした重たいことばになり、記憶しにくい名前になったことです。
 日本人は一音でも少ないことばを好む音用上の習慣がありますが、そういうことをまったく考慮に入れなかったことが大きな理由といえましょう。

2.「美人コンクール」 の入賞者を 「ミス」 と呼ぶのは全国で一般化されていますが、「ミス」 という音は鼻音と無声摩擦音でできていて爽やかでやさしいイメージの音を持っています。

 それを、華やぎ感がない、ゴツい感じの 「親善大使」 では、音の面でも字面の面でも 「ミス」 に比べて、イメージの落差があまりに大きいことは誰が見ても明らかです。


 昨年応募者が減ったのは、こうした配慮を欠いたことばに応募者が魅力を感じなかったからだと考えてよいでしょう。

 表現したいことの多く言おうとすると、どうしても長い文隣、それだけ明白なイメージを持たないことばになるのです。
 ことばが伝えるインパクトは文字の数に反比例しますから、音の数を一音でも少なくすることがネーミングの秘訣といえるのです。 (木通)

消えてゆく語と生き残る語

 散りゆく桜の花びらを見て、外国人も日本人と同よう美しいと感じるでしょうが、日本人が暮らしの中で身につけてきた 「散り行く花」 への風情や哀感とは幾らか違うものではないかと思います。 このことは、ことばの音についても言えるのです。

 日本人は誰もが 「チ」 や 「ピ」 を明るく強い音に感じ、 「グ」 や 「ジョ」 を暗い音と聞く感性をもっていますし 、「迷う」 と 「さ迷う」、 「切り離す」 と 「カットする」、 「さぐる」 と 「まさぐる」 など、語音が伝えるイメージの微妙な違いを正しく聞きわけながら互いの心を伝えあっていますが、そういうことができるのは日本語で育った人たちだけが持つ感性の力といってよいでしょう。
 それは、 「やまとことば」 の昔から使われてきた日常の話しことばや詩歌や逸話などから育てられたものですが、今使われている流行語やネーミングなども、それと同じ音相感覚の上でできているのです。

 新語や流行語は今後も増えてゆくでしょうが、日本人に好まれない音を持つ語はやがては他の語に言い換えられたり、より良い語が出現したらあっさり捨てられるなどして長続きしないのです。
 それは日本人の誰もが先祖伝来、心の奥にもっている遺伝子の働きによるものです。(木通)

音楽プレーヤー「アイポッド」の魅力

  「1万曲から簡単に選曲ができ、目方も軽い
        デジタル・ミュージック・プレーヤー …… 「アイポッド(iPod)」。」
 こんなコンセプトを聞いたとき、 「アイポッド」 という商品名が、それをどこまで表現しているかが気になって音相分析をしてみました。
 あなたも体験版でお試しください。

 表情語の高点部分を見てみると、「動的、活性的、強さ、鋭さ、高級感、個性的、合理的、シンプル感」などが並んでいて、この商品が表現したい主なコンセプトを見事に捉えた語であることがわかります。

 また、表情の方向性が反対の「活性的と非活性的」「高級感と現実感」などが、近いポイント数で対立しているため、商品の奥行き感が表現されています。このような奥行きのある語は、体験版で見られるように、最高ポイント数が低くなるのが特徴です。 (木通)