日本語好きな人、寄っといで -3ページ目

ネーミングで忘れてならない「麻痺現象」という落とし穴

 新しいネーミングに出会ったとき、何とないぎこちなさを感じても、その語を繰り返し聞いているうち、初めのぎこちなさが気にならなくなることがよくあります。

 このような現象を、音相論では「ことばに見られる麻痺現象」と呼んでいます。

 麻痺現象は元号や地名や社名など、普段多く使われることばほど、それが早い時期に現われます。


 「平成」という元号名が発表になった時、マスコミが識者や町の声を多く聞いていましたが、「感じが良くない」、「明るさがない」、「平凡だ」、「未来期待感がない」、「意欲がない」などの感想がほとんどで、「良い」というのはゼロに近いようでした。

 そのときこの語の音相を分析してみたら、「穏やかで安定感はあるが、暖かさや親しみを感じない語」との評価が出、その原因は「へーせー」の4音がすべてネガティブなイメージを作る「エ」音できていることと、子音(h、s)も穏やかだが響きの弱い摩擦音ばかりでできているからだと出ていました。

 私はそのとき、大衆のことば感覚の高さに驚いたのですが、同じ新聞社が3カ月後に行なった同じアンケートの結果では、前記の内容とは反対に「感じがよい」、「明るい」、「使いやすい」などがほとんどで、「良くない」はまったくありませんでした。


 大衆の直感など、それほど当てにならないものだから、大衆の感や第一印象など無視してよいという見方も生まれそうですが、人々が麻痺現象を起こすのは表面的なところだけで、最初に直感した第一印象はいつまでも意識の底に留まって原型のままで作用し続けるものなのです。

 

 東京株式市場の一部上場企業の名で、今でも元号名を冠しているのは「明治」5社、「大正」3社、「昭和」15社がありますが、会社の創立、合併などがとりわけ多かったこの20年間に、「平成」を冠した社名が1社もないのを見ても、社名にするほどの魅力のない語であることを、誰もが心の底で感じているからです。

女性誌「JJ」(ジェイジェイ)(光文社)・・・改めて「女性の実態」を見直そう

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jj

 「JJ誌」は2~30歳代の、都市派女性に向きの月刊情報誌です。

 表情解析欄の高点部分に高級、優雅なセレブ女性を思わせる表情語が並び、情緒解析欄の情緒語がそれらを適切なイメージでフォローしていることがわかります。

 だがこの層が、現代の消費者構造でいうF1層(Female 1層・・・20歳~34歳の女性)という存在であるのを思うとき、この分析表の表情語「シンプル感」、「躍動感」「軽快感」「強さ」「溌剌さ」などがすべて「ゼロ」ポイントになっているのがたいへん気になるところです。


 この雑誌がF1層をなぜ意識に入れなかったのか。

 いやそれは、JJ誌が見落としたのではなく、ここ20年ほどの間に若者の側に目立った質的分化があったからなのです。

 この分析表で高点が出ている表情語は、現代では4~50歳代以上の女性にも当てはまるほど「若者・女ざかり・中年・初老」の概念が変わったからなのです。

 ちなみに、JJ誌の創刊を調べてみたら30年前の昭和53年。そんな変異がまだ顕著に見られない頃のことばだったのです。


 JJ誌30年の歴史の重みを残しながら、タイトルを考えるべきときにきているように思うのです。

 このことは、男女を問わず若者向け商品名一般についてもいえる大きな課題なのですが、現代の若者ムードを言語化するにはどんな音を使えばよいかが問題です。


 それは一言でいえば、「JJ」の分析表にある
 「有効音相基欄・・・有声音多用、濁音多用、マイナス輝性、逆接拍多用」
 が作る音相と、全く反対のイメージを作る「無声音」と「順接拍」を大幅に取り入れることなのです。

 これらを加えることにより、現代の若者ムードはいかようにでも表現できるのです。

 ちなみに、無声音とはk, s, t, p, hの各行音とそれらの拗音をいい、順接拍とは子音と母音がプラスあるいはマイナスの同じ方向を向く拍をいいます。

男性化粧品「UNO」(ウーノ)(資生堂)・・・イメージはあるが、表情がない

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 表情解析欄の最高ポイント数を50.0に抑えているため、複雑で奥ゆきが感じられることばですが、具体的な表情がどこからも聞こえてこない、たいへん不思議なことばです。

 表情解析欄には多くの表情語であるのに、そこからなぜ「表情」が顕在化しないのでしょうか


 それは、次の理由によるものです。


 この語は「動」の表情をつくる「濃い青色」の表情語と、「静」の表情を作る「うす青色」の表情語が「Q対A、D対T、A対T、F対R、R対E」のように同じ程度(1:1.2以内)のポイント数で並んでいるため、動と静が相殺されて明白な表情にならないからです。

 また、明白な表情をもたないため、情緒解析欄の情緒語もほとんど出ていませんし、表情や情緒が見られないから、記憶や印象にも残りにくいことばとなっています。

 また、情緒語がないのに複雑度欄に高点(4)が出たり、情緒性がないのにコンセプトバリュー欄で「中・高年齢者に好まれる語」が出るなど、矛盾した表現も見られます。


 関係者たちが制作時にどのようなコンセプトをお持ちだったかは不明ですが、大衆の平均的な目線で捉えれば、以上のような評価となるのです。

●「トヨダ」から「トヨタ」へ・・・世界への飛躍に貢献したネーミング・パワー

トヨタ自動車は3年連続1兆円超の最終利益をあげ、生産台数も昨年GMを抜いて世界一となった。
 「トヨタ自動車」の前身は「豊田自動織機」だが、1937年に独立し呼称も「トヨダ」から「トヨタ」に変わった。今でも「トヨダ自動車」と呼ばれることが多いようだが、「トヨタ」への改称が今日の隆昌に大きく関わっているように私には思われる。
 それは「ダ」と「タ」、濁音があるかないかの違いだが、音相的には「ダ」は存在感や重厚感を伝える「有声破裂音系」の音、「タ」は軽さや明るさを作る「無声破裂音系」の音だから、その違いが世間の人のイメージを変え、アイデンティティーや社員のマインドを変えるエン ジンとなっただろうことは疑う余地もないはずだ。
 このことを今少し具体的にしてみようと、音相分析を行ってみた。
 まず、「トヨダ」を見てみよう。
 (注)表情解析欄の青い棒グラフは、次の違いを示すもの。
 濃い青・・・「活力感、若さ、シンプル感、現代感」など、明るさや活性感などプラス方向を向く表情語。
 淡い青・・・「高級、優雅、落ち着き、安定感」など、静的または非活性的なマイナス方向の表情語。
 中間の青・・・プラス、マイナス、どちらにも機能する表情語。

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toyoda
 

 表情解析欄の高点部分で気品や高尚さを作る表情語「静的(T)」,「高級感(R)」,「安定感(Q)」,「安らぎ感(P),「優雅感(S)」を捉えているが、「クルマ」に欲しい現代感やメカニックなイメージを作る表情語「強さ(J)」、「シンプル感(A)」、「軽快感(F)」、「活性感(D)」、「個性感(K)」などが低いうえ、とりわけ強調したい「庶民性(M)」がゼロ・ポイントになっているなど、コンセプトの把握に大きな偏りのある語であることがわかる。

次に「トヨタ」を見てみよう。

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tyota
 

 表情解析欄では「庶民性、適応性(M項)」をトップに、近代的な雰囲気を作る「都会的(H項)」、「合理的(J項)」、「活性感(D項)」を高点に置き、クルマ表現に必要な気品や高級感を作る「安らぎ感(P項)」,「信頼感(Q項)」,「高級感(R項)」,「優雅感(S項)」,「静的(T項)」などを程よい加減で取り入れている。
 さらにこの語には、全体のポイント数を低目(最高50.0)に抑えたという良さがある。全体のポイント数を低めるとすべての表情が圧縮されるから、密度や奥行き感のある語になるが、「トヨダ」のようにポイント数を高めると、イメージが明白になる代わり、単純で厚みのない語になってゆく。
 「トヨダ」と「トヨタ」の音の違いを分析すると、「トヨタ自動車」が飛躍をとげた裏に「音相」という目に見えないパワーが存在していたことがわかるのだ。

●単音だけでことばのイメージは捉えられない

 書店で「日本語はなぜ美しいのか」という本を開いてみ他。その中にことばが作るイメージは、音の単位である子音、母音が持つ個々のイメージを集めるだけで得られるように書いてある。
 この方法で一部のイメージが捉えられる語もないではないが、「サ(sa)」「ク(ku)」「ラ(ra)」という単音の表情を集めただけで、「さくら (桜)」という意味を持つ語のイメージを捉えることはできないし、この方法では「さくら(桜)」と「くらさ(暗さ)」のイメージ差を説き明かすこともできないはずだ。
 意味を含んだ「ことば」のイメージは、破裂音、摩擦音、有声音、無声音、逆接拍、順接拍、無声化母音などの単位(・・・これらを音相基という)に下げて捉えなければ得られるものではないのである。
またイメージには、音相基同士の響合いから生まれるものや、いくつかの表情語の集まりが作る「情緒」もあり、これらを総合することで 始めてことばのイメージは捉えられるのだ。
 ちなみに、音相基の数は40種、音相基が響き合って生まれる表情は38種、表情語の集合から生まれる情緒の数は、現在明確に捉えているものだけで44種ある。
 前項で「トヨダ」と「トヨタ」の違いを述べたが、イメージをあれほど大きく変 えた原因を「ダ」と「タ」の違いだけでどうして説明できるのだろうか。

 単音でイメージを捉える試みは、鎌倉時代に音義説というのを説いた人がいたが、客観的な根拠説明ができないところから近代言語学の発達と共に姿を消した。
 そういうものを今なぜ新たな発見のように言うのだろうか。現代のことば科学のひ弱さを感ぜずにはおられない。

●大衆の感性を知らずに、ネーミングは作れない

 若者たちの間で、漢字の読めない人が増えている。
 だが彼らは字が読めず意味がわからなくても、日常の会話などではあまり不便を感じていない。それは彼らがことばの音からその語のイメージを捉える感性を持っているからだ。
 「厳格」(げんかく)ということばの意味を知らなくても、語音から伝わるイメージで「厳しさや威圧感」のようなものを感じたり、「アネモネ」がどんなものかを知らなくても、語音が伝えるイメージでやさしく暖かいものが思い描けるからである。
 そんな感性があるからこそ、「ルイビトン」、「ディオール」、「アルマーニ」、「ティファイー」・・・など人の名でできた意味をもたないブランド名にも、美や快感や西欧風のモダニズムなどを感じることができるのだ。
 昭和の初め頃、「ランデブ-」、「銀ブラ」、「モボ、モガ」などということばが大流行した。これらはみなモダンで明るい意味を持ったことばだが、暗く沈んだイメージを作る有声音ばかりでできている。
そのような矛盾した語が10数年もはやり続けたということは、当時の人がことばの音にいかに無関心だったかがわかるのだ。

 それに比べ、今の流行語はどうだろうか。
 「イケメン」、「おもろい」「チャパる」、「カッコいい」「デパチカ」、「チクる」、「超~」、「メチャ」、「激~」など、日本中でうけている語はみな意味にふさわしい音をもっているし、反対に「ビッグ・エッグ」、「E電」、「DIY(ディ-アイワイ)」、「WOWOW(ワウワウ)」のような、音の響きの悪い語は、発表になったその日から進んで口にする人がいない現代人はこのような優れた感性をもっているから、新しいネーミングに接したときも、音から伝わるイメージと意味(コンセプト)との間の関係性の程度を見ながらその良し悪しを評価する。
 これからのネーミングは、そのような大衆の感性を知らずに作ることはできないのだ。

Q 記号ネーミングをどう考えたらよいか

今、新しい社名を検討中ですが、良いものがなかなか見当たらず、いっそアルファベットを並べたUFJのようなものにしたらという案もでています。最近多いこの種の記号ネーミングを、どのように考えたらよいのでしょうか。(東京キッド)

A .アルファベットの組み合わせなどでできたネーミングも、その多くは意味のあることばが元でできていますが、一般の人にそういう意味はわからないから、誰もがそこに記号の羅列という味気なく冷たいものを感じることでしょう。 
 しかしながら、この種の語にも「ユーエフジェー」のような音がありますから、その音相が会社のイメージ(コンセプト)を適切に表現してさえいれば、ネーミングとして成功させることは可能です。
 そういう例として「IBM」「BMW」「NHK」などがありますが、このような語を広く世間になじませるには、長期にわたる反復周知が必要で、多額の費用を覚悟しなければならないでしょう。
 やむをえない場合もありますが、この種のネーミングはできることなら避けることが賢明のように思います。


Q 音相論では「東京」を、なぜ「トーキョー」で分析するのですか

 A .日本語の表記のし方は「現代かなづかいの要領」(昭和21年、内閣告示)で定められています。これは文字で書くときの表記法を決めたもので、「東京」は「とうきょう」と書くこととなっています。
 だが日常の会話では「トーキョー」と発音しますし、この音でお互いがイメージを伝え合っています。
 したがって、音のイメージを捉えるには、発音どおりの音「トーキョー」で行なうのが正しい方法といえるのです。

●ネーミングの「分析、評価」を行います。

 当研究所では、社名や商品のネーミング案をコンピューターで解析し、日本人の平均的感性を基本にその良否や問題点などを評価するコンサルタントを行っています。
 「分析表と評価の実例」欄にその実例が出ていますので、ご参照ください。
ここをクリック

主な分析評価料      (注)いずれも消費税を含みません
(1) 個別評価の料金  (1語ごとに本評価するとき)
 ・本評価料      1語ごと     30,000円

(2)総合評価の料金 (大量の案を絞り込むとき)
 ・コンセプト調整費  1コンセプトごと  70,000円
 ・ラフ分析料      1語ごと        2,000円
 ・本評価料       1語ごと       30,000円

 (参考)【総合評価(2)の場合の費用例】
(例1) コンセプト数1、ラフ評価数10語、本評価語 3語の場合・・・・180,000円
(例2) コンセプト数1、ラフ評価数20語、本評価語 5語の場合・・・・260,000円
(例3) コンセプト数1、ラフ評価数100語、本評価語10語の場合・・・570,000円

(詳細は、当研究所(電話046-848-1276)へお問い合わせください。)

Qイメージはどんな方法でとらえたのか

 音相理論では、イメージという曖昧なものをどんな方法で体系化したのですか。そのポイントとなることろをお教えください。(東京港区s.高山)

 A ことばがもっているイメージをどこまでも分解してゆくと、明るさと暗さ(プラスとマイナス)の軸と、強さと弱さの2つの軸で捉えることができますが、これら2軸を組み合わせると、あらゆることばのイメージは、次の6つのパターンで捉えられることがわかります。

 1、明るく強いイメージ

 2.明るいが強くないイメージ

 3、暗く強いイメージ

 4、暗いが強くないイメージ

 5、明、暗いずれでもないが、強いイメージ

 6、明、暗いずれでもないし、強くもないイメージ

 次に、イメージと音の構造の関係を具体的に捉えるため、国語辞典から「明るい、嬉しい、にこにこ、悲しい、痛い」など感情を含んだすべてのことばを取り出して(約1300語)、その1つ1つを意味内容ごとに上の6つの箱に入れ、それぞれの中にどんな音(音相基)が多く使われているかを調べた結果、「破裂音は明るく強いことばに多い」、 「有声音は暗いイメージのことばに多い」など1つ1つの音相基がもつイメージを捉えることができました。
 これを甲類表情といいますが、1語の中に2つの甲類表情があって、両者の間に同じ表情語がある場合、共通している表情は甲類よりもさらに信頼度の高い表情だといえましょう。
 それを乙類表情と名付けました。
 そのほか、表情の一種として「情緒」というのがあります。これは、幾つかの表情語の響き合いで生まれるものとし、その種類を捉えました。

 以上の作業はコンピューターで処理されますが、それらのデーターをどう読み、どう評価するかはその言語の音用慣習や、評価者の完成や人間的体験によって判断しなければなりません。
 それはもっぱら人が行なう仕事となりますが、もしそこに評価者個人の好みや主観が入ったら評価は無価値なものとなってしまいます。
 音相理論によることばのイメージ評価は、以上のような過程と考えをもとに行なわれているのです。